エクストラショットノンホイップキャラメルプディングマキアート
本作は「シアターシュリンプ第一回公演」と銘打たれた、私立恵比寿中学の本格的な初舞台公演である。
2015年3月12日~15日の間、博品館劇場にて全九回の公演が行われた。
ブルーレイではそのうちの一公演とメイキング映像を収録。
早見あかり主演、ももいろクローバーZ助演(声のみ)の「ウレロ」シリーズや、私立恵比寿中学主演のTVドラマ「ロボサン」などを手掛けた劇団シベリア少女鉄道の土屋亮一が脚本演出を担当している。
いわゆるアイドルのお芝居なのだが、大がかりなコントのような作品でコメディ色が強く、エビ中のひとりひとりが役を通じて強烈な個性と非凡な才能を発揮させている。
「あ、エビ中ってマジで演技出来んだな」と思わせるに十分な芝居を堪能することが出来るのだ。
スターダスト所属のアイドルは元々女優を目指して入所した子が多く、歌、ダンスに加えて演技のレッスンを経験しているのだが、本舞台はわずか二週間程度の稽古による舞台というのだからその習得速度に驚く。
「舞台ってこんなに面白いんだな」と思わせる一作。
この長ったらしいマシマシ系呪文のようなタイトルはスターバックスでのオーダー名らしく、作中の台詞によると甘いのか苦いのはっきりしない複雑な乙女心なのだそうだ。
「エクストラショット・ノンホイップ」が苦くて「キャラメルプディング・マキアート」が甘いんだろう多分。私はスタバ行ったこと無いのでわかりませんが。(煙草吸えないから)
演劇部のOGである藤巻は、大会を二週間後に控えた後輩達の活動を見学するため母校へと訪れる。
そこで目にしたのは、内部分裂により大会出場が危ぶまれた演劇部の姿であった。
しかしそれは体よくOGを追い返すことを目的とした、現部長・宮内の手引きによって仕組まれた芝居だったのだ。しかし、ウソにウソを重ねるうちに段々と収集がつかなくなっていき・・・。
藤巻千種 (真山りか)
演劇部OG。学園理事長の娘。演劇に対する情熱は強いが世間ズレしているところがある。なんだか残念な人。
熱血演劇少女であり空気が読めないため、後輩からは内心疎ましく思われている。
宮内まや (柏木ひなた)
演劇部部長。内心点の為に部長をやっている。演劇に対する興味は全く無く、二週間後に迫った大会の不参加に正当な理由をつけるべく部員と共に嘘の芝居で藤巻を騙そうと画策する。
田中小枝子 (松野莉奈)
演劇部部員。宮内の計画に参加するが、適当な事を言って話をどんどん大きくしてしまう。そしてその様をひとり面白がっている。
常にニヤニヤしている。
遠藤優羽 (星名美怜)
演劇部幽霊部員。頭の回転が鈍く、状況が飲み込めていないにもかかわらず要所要所で余計な発言をし、場をかき乱してしまう。
台本が無いとセリフが言えない上に棒読み。
西本紀恵 (中山莉子)
演劇部部員。下級生であり、部長の宮内に使いっ走りにさせられている。
一見従順な態度をとっているが、その実、内心に秘めた想いがある。
子役の経験がある実力者。
川辺真純 (小林歌穂)
演劇部部員。部の中で唯一の常識人であり、苦労人。はっきりしない優柔不断な性格から周りの人間に振り回されてしまう。
同校に姉がいる。
志村亜由美 (安本彩花)
演劇部員の演技をしていない素の部分を演技だと勘違いし、その迫力から芝居の素晴らしさに魅了されて入部を希望する。
欲しがる子。
川辺栞 (廣田あいか)
川辺真純の実姉。極度のシスコン。
演劇部の嘘の芝居に騙され、自分は妹から嫌悪されていると勘違いし心神喪失状態となる。劇中で一番かわいそうな人。
加藤先生 (加藤雅人 ラブリーヨーヨー)
演劇部顧問。やる気が全くなく、楽をしたいだけのダメ教師。 小関先生に想いを寄せている。今年度から顧問となったためOGの藤巻とは面識が無い。
小関先生 (小関えりか シベリア少女鉄道)
教育実習生。常識人。とあることから加藤先生と演劇部員の関係に疑念を抱く。
役名の下の名前は全員「ガラスの仮面」からとられている模様。
名字の元ネタはあるのだろうか。
宮内と聞くと宮内洋(ズバット他)しか浮かばない自分としては、名優からとったのかなと勝手に思っている。(多分ちがう)
映画にしろ演劇にしろ、アイドル関係のものは「ファン向け」という要素がどうしても強くなってしまうし、そういう目で観られることも仕方が無いのは事実である。筆者も「エビ中の舞台だから」という理由で観たわけだし。
しかし本作はエビ中のことを知らなくても十分に楽しめる作品だと思う。それは単純に脚本の面白さというものが大きいし、役者の演技が(アイドルであっても)一定の水準をちゃんと超えているからだ。
コメディをやる上で一番難しく、かつ一番重要な「間」がしっかりとれているので違和感がない。
舞台だと観客から起こった笑いが収まるタイミングというのを意識しないといけないそうだ。
その上でエビ中のことを知っていて、メンバーそれぞれのキャラクターを知っていれば更に楽しめる作りになっている点は理想的だと思う。
逆にここからエビ中ファンへの一歩を踏み出すのもいいかもしれない。
「アイドルだから」って理由で食わず嫌いしてる人には尚更おすすめ。(昔の自分への提言)
本作は開演直前まで内容が伏せられていたらしい。それは同時期に上映されていたももクロの映画「幕が上がる」に対するアンチテーゼ的な要素が含まれているか
らだろう。「幕が上がる」は演劇の素晴らしさに触れて全国大会出場を目指すストレートな演劇部のドラマであるが、本作はその逆を行くものである。こういう
スタンスがなんともエビ中らしいと思える。
以下ネタばれ含む感想
めんどくさいので役名ではなくキャスト名で書きます。
劇中では出てこないが、中学校が舞台らしい。どうみても高校なんだけどな。真山が大学生(かそれ以上)にしか見えないし。まあエビ中だし。
真山の残念なお姉さん感は凄くいい。ピンクのカーディガンが良いです。確かに空気の読めないキャラクターではあるけど、後輩から疎まれるタイプとはちょっと思えないんだけどね。OGっていうか先生っぽいな。
柏木がやっぱり演技という点では一つ頭抜けている様に思える。だって全然ひなたに見えないんだもんね。テレビで映らない部分の柏木ひなたはこういう子ですっ
て言われてもあまり違和感ないかもしれない。そうなら嫌だけど。演技的に一番複雑な役どころを与えられているわけだけど、ちゃんと使い分けられてて大した
もんですね。
ひなたの可愛いとこをバッサリ切ってるのは凄いね。
逆に安本は割と素に近い役柄だったこともあって、ちょっと割を食っている感がある。すごく演技っぽい演技をしているのは多分演出なんだろうけど、意図があまり読めなかったな。ちょっとバカっぽく見えないと嘘の脚本に騙されることに無理が生じるからだろうかね。
廣田は重たいキャラクターという結構意外な使われ方をしていて新鮮ではあったけど、劇中での扱い的に可哀そう過ぎて見ててちょっと辛い。なんとなく廣田を前面に置くと他の面々を食ってしまいそうな気はしたので最適解かもしれない。
やっぱり演技してると全然違う声で喋る模様。
一応エビ中では秀才キャラである星名がバカキャラというのは狙ってるんだろうね。すごく頭悪そうに見えたので演技力なんだと思う。漫画っぽい役柄なのもある
けど、全然星名に見えないので偉いね。話に絡んでいない端に居る時も顔がとろーんとしていて良い。何気ないところの表情が良く出来てる。
松野は怪演と称されるだけあってかなりインパクトがある。声が非常に通ることもあって目立つ目立つ。悪い笑顔が抜群だなあ。大仰な演技が悪ノリ感を倍増させている。ルックス的にクールキャラになりがちなのでこういうのはいいね。
凄く楽しんで演じていそうに見える。飛び道具的な役柄なので演技力云々を計るのが難しいですよね。
小林も割とパブリックなイメージに近い役柄ではあるんだけれど、顔芸が凄い。その場その場での表情が雄弁で、セリフを回しているよりも顔の方が印象が強い。カツゼツ悪いけれど演技力は高いと思う。この子は全然違う役も見てみたいな。まだ中学生なんだよなあ。恐ろしい子。
そして中山。個人的に一番笑ったのが中山が出る場面。小林に胸の内を晒すシーンは何度も観ました。震えるところが良すぎる。二面性を持つ役柄であり、その切り替わる瞬間が非常に良い。声色と表情の変化、そしてその間の取り方が抜群に上手いと思う。この子も「素はこうなんじゃないか?」と思わせる力があるね。
セリフだと割と流暢に喋れるのだな。
舞台芝居というものを本作で(映像ではあるけれど)初めてみました。一つの空間で多様なシチュエーションが作られるというものがこんなに面白いんだなと思わされました。
シアターシュリンプ第一回公演と銘打たれているので、いつの日にか第二回公演が来ることを楽しみに待っていようと思います。
ブルーレイ(DVDは無いです)は3,000円と格安なので買うべき。
メイキング以外のおまけは一切ないけどね。シンプル。