今回は以前「ザ・シロップ」の記事にて軽く触れた「ルパン三世」について、もう少し突っ込んだ話をしよう!という企画。
2015年10月より開始される新テレビシリーズを目前に控え、その過去作品に触れてみるいい機会ではないでしょうか。
第4作目となるテレビシリーズ 2015年10月開始
ということで
まずシリーズ解説から
一口に「ルパン三世」と言っても多種多量に作品はあるため、ここではまずテレビ放送されたアニメ作品に絞って解説を交えつつ整理してみよう。
1971年~72年 全23話
最初のテレビシリーズ。「旧ルパン」や「緑ルパン」「1st」なんて呼ばれる。ルパンのジャケット色は緑。
原作漫画の持つアダルトな雰囲気を活かした「大人向けアニメ」として企画がスタートしている。(企画書上は小学校高学年が対象)
この時代としては異色である、低年齢層を意識しない造りであったために視聴率面で苦戦。
スポンサーから路線変更を求められるも、演出家はこれに反発し途中降板してしまう。
以降少しずつ軌道修正するように路線を子供向けへと変更していくが状況はさして好転しないまま結果的に2クールで放送終了となる。
1977年~80年 全155話
第一シリーズが度重なる再放送により徐々に人気を獲得し始め、アニメブームの追い風もあって作られた続編。通称「新ルパン」
丸三年に渡って放送される人気番組となる。大野雄二によるテーマ曲も含め、現在に至る一般的なルパン三世のイメージはこの時に確立される。
作風はハードボイルドな雰囲気を残しつつもコミカルであり、低年齢層を含む幅広い視聴者層に支持される手堅いもの。
放送中に劇場版が二作(vs複製人間、カリオストロ)作られている。
1984~85年 全50話
オリジナルスタッフ不在の全く新しいルパン。絵柄も含めスラップスティックなノリが強い。
放送期間は一年半に渡るが、放送時間帯の関係(ナイター中継)で50話しかなく、最終回も通常回のような作りである。ルパンのジャケットはピンク。通称「パースリ」
放送中に劇場版作品「バビロンの黄金伝説」が作られている。
1989年~ 現24作
89年の「バイバイ・リバティー危機一発」以降、現在に至るまで毎年1作品が製作されている(例外有り)。作品ごとに差異はあれど、全体的に第二シリーズの流れを組む造りである。第二シリーズや劇場版二作と共に世間一般に知られる「ルパン三世」
93年の「ルパン暗殺指令」では20年ぶりに大隅正秋が参加している。
2012年 全13話
峰不二子をフィーチャーしたスピンオフ作品。第一シリーズや原作漫画を強く意識した作りでTVスペシャルとは一線を画すアダルトな雰囲気を纏う。時代設定も60年代後半から70年代初頭とのことでゲバルトでハレンチなフィーリングである。
と、こんな感じですが、40年以上に渡ってほぼ毎年何かしら新作が作られているというのは他になかなか無いコンテンツではないでしょうか。
で、ここまでが前置き。
長い歴史を誇る「ルパン三世」の中でも私が一番好きなのは「旧ルパン」こと第一シリーズなわけです。
「機動戦士ガンダム」同様に1st原理主義者と呼ばれる存在を生みだすに足る魅力とは何なのか。そこら辺を語りたいと思います。
旧ルパンの企画段階から参加し演出を担当した大隅正秋は、上で述べた様に、第3話終了後に突き付けられた路線変更を断り降板となる。
その後を引き継いだのが宮崎駿と高畑勲のコンビ(Aプロ)であり、徐々に子供向けのコミカルな作風へとシフトしていくことになる。
つまりは前半がハードな大人向け路線、後半が子供向け路線と大別できる。
銃器や自動車はもちろん腕時計や煙草等のディティールに拘った描写、殺伐とした登場人物たち、ブルーズを基調とした独特のムーディなBGMが「オトナの世界」を作り出している。
昔のアニメらしく無国籍な雰囲気があり、生活感のある描写はほとんど無い。
Aプロ演出になると当時の日本の風景が描かれるようになり、「昭和47年」や「機動隊との乱闘」といったセリフから現代の日本であることが強調されるようになる。
大隅演出期は特に「何かを盗む」といった話が本筋ではない場合が多い。設定上は怪盗ではあるのだが、敵対する人物と闘うといった側面が強く、ハードボイルドな雰囲気を感じさせる大きな要因である。
クレジット上は3話までが大隅、16話以降はAプロ、4話~15話までは表記無しとなっている。
大隅がスタッフから抜けたのは第3話終了後だが、既に大筋が出来ていた4~6、9、12話は大隅演出によるものである。
4話以降は多少なりともAプロ演出による修正が入ってる模様。
12話までのうち上記以外の7、8、10、11話がAプロ主体によるものとなるが、やはり雰囲気が異なる。7話はライバルキャラであった五ヱ門が仲間になり、8話はメインキャラ4人が一つの仕事をこなすという、後のルパン三世のスタイルの原型となるエピソードである。
10、11話は後に宮崎駿によって作られる「カリオストロの城」との共通のモチーフが見られる。
ルパン三世
大隅演出期のルパンはルパン帝国(犯罪組織)のボスであるという初期設定が生きている。故に敵対するものは躊躇なく殺し、女も抱くといったダーティな雰囲気を持つ。
作中で世界一の殺し屋と称されることもあり、現在のイメージである「キザな大泥棒」とは異なるピカレスクな存在である。
次元大介
ルパンの相棒であり第一の部下である。次元に関してはテコ入れによる変化が乏しい。これは新ルパン以降も変わらず、ブレ幅の少ないキャラクターである。
石川五ヱ門
旧ルパンのゴエモンの表記は「五ヱ門」である。5話にて初登
場。ルパンのライバルキャラであり、登場時は敵対関係にある。「コロシの世界チャンピオン」らしく殺伐とした雰囲気を纏うが、一方で不二子ガールフレンド
と称したり、女を侍らしたりと現在のイメージとはかなり差のあるキャラである。仲間になった後も行動を共にする機会は少ない。声優は井上真樹夫ではなく大
塚周夫。企画段階では存在しないキャラである。
峰不二子
不二子は作品ごとに製作者の好みが反映されやすいキャラであ
る。大隅演出期は甘ったるい声(柳生博の嫁)も含めコケティッシュな魅力が前面に出ている。単独で行動することも多く、ルパンたちの仲間というよりは利害
が一致したときのみ手を結ぶといった関係である。裏切る事も多い。Aプロ演出期にはショートカットにボーイッシュなファッションへとイメージチェンジがな
され活発な性格へと変容した。
全23話のうち、大隅演出回のみを簡単に解説する。
第1話 ルパンは燃えているか…!?
犯罪組織スコーピオンはルパンを抹殺するため、身元を偽り飛騨スピードウェイで行われるレースへとルパンを招待する。これを罠と見抜いていたルパンはレースに参加しつつもスコーピオンを壊滅するべく、奇抜な作戦を決行する。
第1話らしくキャラクター紹介の要素が強い。「ルパン帝国」の名称も出ている。スタートフラッグが振られてからエンジンをかけるのが当時のレースなのか?という突っ込みは野暮かな。「裏切りは女のアクセサリーみたいなもの」という名言もある。
第2話 魔術師と呼ばれた男
銃弾を跳ね返し、指先から炎を出す不死身の男パイカル。その体の秘密が記されたフィルムと不二子を巡り、ルパンはパイカルと対決する。
ファンに人気の高いエピソード。結構無茶な設定だとは思うが、パイカルと不二子のやりとりなど、オトナな世界のフィーリングがイカしてる。パイカルはマザコンぽい雰囲気があると思うんだよね。メッセージを残すためにオープンリールデッキを携帯する不二子は苦労人だね。
第3話 さらば愛しき魔女
強力な爆薬の元となる植物「第3の太陽」を巡り、キラーインキラーズと対決するルパンと次元。その道中で知り合った女リンダは「第3の太陽」が無ければ生きていけない体であった。
地味だが好きな話。冒頭で初見の人間にいきなり発砲する不二子や容赦なく敵の構成員を殺すルパンと次元など、やたらと殺伐としていて良い。ボスのスターンって次元とデザイン被ってるんですけど何とかならんかったんですかね。
第4話 脱獄のチャンスは一度
作戦ミスにより銭形に捕えられたルパン。死刑を宣告されたルパンは執行のその日まで檻の中で「自分はルパンではない」と叫ぶだけで一向に脱獄しようとはしない。それは屈辱的な仕打ちを受けたことに対する仕返しの為の危険なゲームであった。
ルパンというキャラクターを理解するために最適なエピソードだと思う。どことなくコミカルであるが、最後のどんでん返しからの非情で冷酷なルパンは文句なくカッコいい。「また同じことを言ってますよ」のブラックな雰囲気がたまらない。看守かわいそうだなー。
第5話 十三代五ヱ門登場
かつて殺しの世界チャンピオンであった老人百地三太夫は自分の権威を守るため、弟子である石川五ヱ門をルパンと殺し合うように仕向ける。策略に気付いた二人は百地を退け、最後の決着をつける。
セ
リフ回しと凝った構図の絵が最高にカッコいい回。屋敷から逃げ出す際の符丁を含んだ次元との会話や直後の斬撃、「どうしてもやるのか?」「やる!」からの道路を走る車に飛び乗りながらの対決シーンなどセンスの良さが爆発してる。作中で小柳ルミ子がかかるアニメなんて他にないぜ。
第6話 雨の午後はヤバイゼ
不二子からある人物の過去を探ってほしいと頼まれたルパン。その人物とは記憶喪失となった暗黒街のボス、カマイタチであった。直後にカマイタチは死ぬが、不二子の怪しい動きからその遺体に何か秘密があると踏んだルパンは部下を集め、遺体を強奪する計画を立てる。
正直何だかよくわからない話なのだが、怪しい素振りを見せた偽次元を躊躇なく殺すシーンや最後の不二子の入浴シーンが好き。特に最後のシーンは山下毅雄の音楽だけでなんとなくカッコいい雰囲気が出せている。「お子様ランチ」ってネーミングセンスすごいな。
第9話 殺し屋はブルースを歌う
とある女を探すため日本へと戻ってきた殺し屋プーン。それは三年前に行き別れたかつての相棒、峰不二子であった。ルパンとプーン一味は同じ獲物を狙い対決することとなるが、その渦中で不二子が負傷してしまう。
プーンに捕えられた不二子を取り返すため、ルパンはプーンにある交渉を持ち掛ける。
何と言ってもこれが一番好き。偽ルパンの襲撃をワイングラス越しに見る敵やそこからのアクション。不二子が決断するシーンと、直後のだらりと投げ出された腕に漂う哀愁など見所が多い。これもラストシーンで山下毅雄の音楽がいい味を出してる。渋すぎ。
第12話 誰が最後に笑ったか
雪深いアイヌの村に伝わる黄金の姉妹像を巡り、しのぎを削るルパン、不二子、ハヤテ一味。姉妹像には隠し金山の場所が記された地図が隠されていた。騒動の果てに地図を手に入れるのは一体誰なのか。
大隅演出回であるが、12話と放送時期が後になったため路線変更後の音楽が使われていたり、Aプロ演出による修正が随所に見られる。個人的にはあまり好きではない回。
村長に大金を積んで姉妹像を買うルパンが見られるが、悪党以外からは盗まないということなのかな。
と、こんな感じです。少しでも魅力が伝われば幸いです。
私は1st原理主義者というわけではなく、新ルパン以降も好きなものはいくつかあるのですが、大隅ルパンの持つ独特の雰囲気は譲れないところだなと思うのです。
やっぱり山下毅雄の存在が大きいと思っとります。
最近の作品ではOVAの「グリーンvsレッド」が好きです。少々難解でマニア向けなので人に勧めることはしないですけど。語ると長いので割愛。
「峰不二子という女」は放送前に番宣画像を観てものすごく期待していたんですが、観たら全然ピンとこなかった。そういうことじゃねえんだよなという気持ちが強い。
この絵自体は凄く好きなのだが…
今なら「旧ルパン」と「峰不二子~」はhuluで全話観られるのでどうぞ。
ではまた。
これは北米版DVDBOXなんですが、全話+パイロットフィルム収録で4,000円以下という何とも破格なプライス。
もちろん日本語音声収録ですよ。画質も素晴らしい。
リージョン1(北米仕様)なのに国内の再生機で観られるというよくわからない仕様です。
おすすめ。
んでこっちはグリーンvsレッド。
かなりルパンマニア向けの作りだと思う。製作者のひとりよがりと言えばそれまでだけど。
物語のテーマは、単純にシリーズの数だけルパンがいるって意味ではないと信じてる。
おすすめしづらい。
初期の企画書にあった「新宿でフーテンしてた若者がある日突然犯罪シンジケートのボスに指名される」というネタが元になってるんじゃないかなって勝手に思ってる。
ルパンマニア必携。
初期設定や企画書なんかが載ってて大変タメになります。
15年ぐらい前に出た「ルパン三世研究報告書」の改訂版的な位置づけ。
400Pの大ボリュームで資料として非常に価値があります。
超おすすめ。