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【爆音列島】リアル系昭和暴走族漫画の金字塔【高橋ツトム】あらすじと感想

投稿日:2015年6月14日 更新日:

 

爆音列島 高橋ツトム

 

bakuon

 

 

 

 

 

 

 

月刊アフタヌーン2002年12月~2013年1月(後にヤングキングにてリバイバル連載)
単行本全18巻
新装版全9巻

 

概要

 1980年代初頭、東京の品川を舞台とした暴走族漫画。

ごく普通の中学生、加瀬高志(かせ たかし)が暴走族に加入し、後に総長代行となり引退するまでを描く。
暴走族を理想化せず、負の側面を多く描き出している点が本作の特徴。
連載は10年間に渡る長期なものとなった。アフタヌーンの懐の深さを垣間見れる作品でもある。

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あらすじ

 加瀬タカシは中学三年の春に、高層ビル群のある中野から三両編成の私鉄が走る下町、品川へと越してきた。以前の学校で喫煙による停学処分を受けたことから、更生を目的とした転校であった。

喫煙行為はまわりに流されただけの悪事であり、タカシ自身はいわゆる「普通の子」の範疇を超えない内向的な子供である。元々は野球少年であったが、中学に野球部が無かったため、その道を諦める。このことが彼の人格を形成していく上での転機になったと思われる。

1980年、学校は荒れていた。暴走族の構成員数は2年後の1982年にピークを迎える状況の中、タカシは「前の学校で悪さをして飛ばされた不良」として迎えられる。
自身も悪い気はしなく、新しい環境の中で馴染んでいくうちに、次第に暴走族の存在が目の前へと現れてくる。

親しくなった友人ミッツの兄が幹部として所属している暴走族「東狂連合ZEROS」の集会に参加したことをきっかけとして、タカシは暴走族の世界へと足を踏み入れる。それは歪んだ青春の始まりであった。

高校受験や家庭内の不破、成長することへの漠然とした不安といったフラストレーションの塊は、タカシを暴走族へと傾倒させていくには十分すぎるほどの原動力となった。

暴力が支配する世界での恐怖や友人の死などを経験し、タカシは人間的な成長を遂げていく。死と隣り合わせで生きる世界で、少年はスピードの果てに何を見たのか。

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見どころ

 作者、高橋ツトムの体験を基にした実録的な不良漫画である。
1980年の細やかな東京の描写が作品にリアリティを与えている。登場する暴走族もヘヴンスジョーカーや極楽といった、実在した暴走族の名前をもじったものが多い。

個人的には登場する「家族」の描写に惹かれた。
タカシたちが溜まり場としていた友人ミッツ宅は、家族がバラバラに食事をする。そのために親から食事代を与えられるのだ。また「兄貴は母ちゃんの家に行ってていない」の発言からみて家族が機能していない家である。この家の描写がリアルで良い。悪い家庭環境の空気をひしひしと感じる。

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時代を感じる1コマ

タカシのそばにいる人間はそのほとんどがまともな家族の中にいない。不良と称される人間の発生原因がその出自にあるのだと改めて認識させられる。

中学時代からタカシと付き合っていたショーコは普通のサラリーマンの家庭の人間であり、父親は娘が不良と交際しているいることに嫌悪感を示す。ショーコはタカシを想うも、父に抗うことも無く二人の関係は自然に消滅してしてしまう。
また、敵対する族「極楽」との抗争の後、深夜の街を徘徊していたタカシらは、個々の窓から一家団欒の灯りが漏れる巨大なマンションに対して「向こうとこっちじゃぜんぜん違う」と呟くなど、住む世界の違いを強調する場面も多い。

漫画としてはカタルシスを得られるような展開は少なく、終始拭いきれない苛立ちに溢れている。
漠然とした不安に対してタカシが出来ることは「止まらずにまっすぐ進む」ことだけである。
そこがたまらなくモラトリアム特有の苦さを感じさせる作品となっている。

 

 

 

 

感想(ネタバレを含む)
 さて、本作の魅力とは何だろうか。と考えた時に、やはり最初に浮かぶのは「繊細な描写によるリアリティ」である。
昭和50年代後半の、下層社会の人たちを覆った独特の空気というものが画面の節々から匂い立つように発せられている。
特に、物語序盤に当たる、普通の中学生が周りに流されて徐々に暴走族の世界へと接近していく過程に顕著だと思う。
ところどころ散見される当時の流行ものもうまく作用している。
 
作者の体験を元にした、とのことだが、物語を読み進めていくと「明らかに漫画的なもの」と「体験によるもの」が若干乖離して見えてしまう。
ミッツやマニヨンらの人物描写と比べるとカズヤやシンジは「カッコいいキャラ」として描かれている分だけリアリティは薄い。
もちろん、それが悪いわけではなく、タカシとの対比をする上でのキャラクター描写なので問題は無いのだが、エンタメに振るかリアルっぽい方向に振るかの作者の葛藤が見え隠れするように思えたのだ。
 
物語は、2人の仲間を事故で亡くしたことを境に前半と後半に分けることが出来る。
前半はZEROSに加入し、
色々ありながらも楽しく仲間たちと過ごしているパート。後半はZEROSの活動により依存し、その中で自己と対峙していくパートである。
後半は漫画的なエピソードも多いが、現実の「なんとなく終わっていく暴走族活動」に対するアンチテーゼとして、タカシを葛藤させるに足るものが多く配置されている。
タカシ以外のキャラクターは暴走族という共同幻想から覚め、それぞれの道を歩いてゆく。
なんとなく覇気が無く現役感の無いシンヤ、いつの間にかサーファーになってるミッツ、バンドに傾倒していくシンジ、本職のヤクザになってしまった綾瀬…。
紅皇帝の石黒は特に顕著で、モラトリアム期間の終焉をまざまざと見せつけられる。
こういった人間の中にあって、タカシは最後まで幻想に取りつかれているように描かれる。
「族を仕事にすればいい」
というタカシの無邪気な提案に、仲間は冷めた目線を送っていた。
このまま走り続けてもどこへも行けないことはみんな分かっていたのである。
 
タカシというキャラクターは作中において決してカッコよくは描かれていない。
むしろ「口ばっかでダメな奴」という印象を与えられるエピソードも多い。
それでも彼なりに状況に対して必死に食らいついていき、葛藤し模索し、最終的に自分なりの答えを出すまでの過程は青春漫画として非常に価値のあるものだと感じた。

 
 
 

 

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爆音列島 1巻(新装版)

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