良く出来た映画はいつも何かを教えてくれる。
それは他者の人生哲学だったり、未知の景色だったり、単純に専門的な知識なこともある。あるいは売れる作品の構造や、観る者を感動させる手法、その作品が生まれるに至った時代背景や産業構造など多岐にわたる。
そんな中、今回は「こんな世界があるのか」「こんな人生があるのか」「こんな時代があったのか」と思わせてくれるマフィア・ギャング系映画を取り上げたいという企画。
個人的に名作だと思う作品をいくつか選んでみた。結構ベタな感じになってしまったが、どれも裏社会で生きる人間の哀しみに溢れているところが好きなのである。
まあ、前口上はこんなもんで。いくんだぜ。
The Godfather partⅡ
言
わずと知れた名作中の名作「ゴッドファーザー」の続編。名作の続編なのに名作という珍しい作品。あえてこちらを推す理由は、全編にわたってマフィアの哀し
みがより前面に出ている叙情性の強さと構成の巧みさによる完成度の高さに他ならない。もちろん続編であるため、前作を観ていることが前提の造りとなってい
るがその分密度が非情に濃い。
物語は前作の後日談である、父ビトーより継承したファミリーを護るがために、多くのものを喪失していくド
ン・マイケルの苦悩の日々と、前日談となる若かりし日のビトー・コルレオーネがファミリーを築いていく興隆の日々を交互に描いていく。そして二つの物語は
ラストの
「家族の風景」に集約される。それは深い悲しみからの長い旅路の果てに掴み取った栄光の輝きであり、護るべきものを違えたが故に失われてしまった過去の輝
きでもある。
The Godfather: Part II (1974) (HD Trailer)
青年時代のビトーを演じるロバート・デ・ニーロのギラギラとした野心的な表情と、マイケルを演じるアル・パチーノの哀しみを湛えた冷酷な表情のコントラストが物語に深みを持たせていると思うんだよね。
物語としては、何をやっても何だか上手くいかないマイケルパートと、どんどん上手く行っちゃうビトーパートに別れていて、観てて面白いのはビトーの方なんだよな。
ああ、マイケルダメだわ…ってのがエピソード単位ではっきりわかっちゃうわけ。
ラストシーンでの「どうしてこうなった」感がすごい。y=ー( ゚д゚)・∵. ターン
この作品において、デニーロとパチーノは同じカットで映ることは一度も無く、二人が本当に共演するのは20年後の「ヒート」(1995)まで待たなくてはならなかった。不仲説が出るわけだ。
Goodfellas
少年時代からマフィアとしてその半生を過ごしたヘンリー・ヒルの実体験を基として描かれたノンフィクション。イタリア系では無いが故に組織の中で上に立てない末端構成員の視点でリアルなマフィアの実態を描いている。
それはゴッドファーザーのコルレオーネファミリーのような美化された家族愛や友情の存在する疑似家族体などではなく、自己保身や出世欲の為には平気で他人を裏切り、足蹴にする人間の巣窟であった。
登
場人物の誰も彼もが人格的に問題のある人間ばかりであり、アウトローな世界の実情が浮き彫りになっている。中でも、ジョー・ペシ演じるトミーのキャラク
ターは強烈で、感情的になると突発的に人を殺める上に、その感情のスイッチがほんの些細なことでオンになるという狂犬ぶりが恐ろしく印象に残る。そんな人
間に囲まれてもヘンリーは「マフィア稼業はやめらんねえ」と言うのだから救えない。ラストは成るべくして成った結果である。
Goodfellas – Trailer – (1990) – HQ
監督のマーティン・スコセッシはシチリア系イタリア移民の家系であり、マフィアの支配するイタリア移民社会で育った。故に実体験から来る、美しい家族愛を謳ったマフィア映画に対する懐疑性とアンチテーゼが本作を形作っていると言える。
音楽の使い方が素晴らしくかっこいい。オールディーズに始まり、ストーンズ、クリーム、フー・・・。ラストのマイ・ウェイ(シド・ビシャスVer.)が非常に作為的で憎いのである。スコセッシはストーンズ好きだよね。
この雰囲気が好きなら「カジノ」(1995)もおすすめ。相変わらずジョー・ペシが怖い。
Casino Official Trailer #1 – (1995) HDdonnie brasco
1970年代のニューヨーク。五大ファミリーと呼ばれる巨大マフィア組織の一つ「ボナンノ一家」に、6年の潜入捜査を経て組織を壊滅させたFBI潜入捜査官ジョー・ピストーネの物語。
捜
査官ジョー・ピストーネは、ボナンノ一家の下っ端構成員レフティーことベンジャミン・ルッジェーロとの接触に成功する。以後、ジョーは宝石鑑定士ドニー・
ブラスコとして組織の一員となり、捜査官として組織の壊滅に命がけで尽力すると同時にマフィアの構成員として、組織の中で上りつめて行くという二重
生活を送ることとなる。
昔堅気で威勢はいいが、どこか抜けていてうだつの上がらないレフティーは、ドニーを良き弟分として扱い、ドニーもレフティーに対し奇妙な友情を感じて行く。やがてドニーは職務と友情の間で激しく揺れ動き、葛藤する。
全てが終わった後、ドニーことジョーがFBIの捜査官だと知らされるも、信じることの無い仲間たち。レフティーからドニーへの最期の言葉「お前だから、許せる」が哀しい。
Donnie Brasco (1997) – Official Trailer
アル・パチーノは実に良い年の取り方をしたと本作を観る度思う。ギラギラとした過剰な演技はなりを潜めたが飄々としたキャラクターから来る存在感が抜群だな。どことなく往年の田中邦衛とダブって見える部分がある。主にサングラスのせいかもしれないけど。
老け役パチーノだったら「セント・オブ・ウーマン」(1992)もいいよね。
洋画に出てくる日本人てどうして日本人に見えないんだろう…。「2つで十分ですよ!」とかね。
Scarface
キューバから反カストロ主義者として追放され、ボートピープルとしてマイアミへ渡ってきたト二―・モンタナ。トニーは麻薬の取引によって闇社会で成功を手に入れるが、次第に仲間との確執や薬物中毒により身を崩していき、手に入れたものは全て儚く失われてゆく・・・。
Scarface Trailer HD (1983)
一級のB級映画である(矛盾)。移民が裏社会で成り上がっていくというシンプルなストーリーなんだけど、3時間という長尺を感じさせないと思う。まあ長いけど。
過剰な演技、大味な展開、刺激的 なバイオレンス、下品なスラング・・・勢いだけなんだけど、それがたまらなく娯楽映画していて良い。深夜にダラダラと観るといい感じの映画。時点で「さらば青春の光」
ラストの屋敷で展開される壮絶な死闘はその死に様も含めて必見だな。
冷
酷で残忍だが冷静沈着であったゴッドファーザーのマイケルとは180度異なるキャラクターを演じたアル・パチーノ。この作品の前後は彼のキャリアの中では
不遇の時代とされることが多いらしいけど、その圧倒的な存在感(と大げさな演技)は決して悪い方向に作用していないと思う。
神奈川県に有害図書指定されたことでも有名なゲーム「Grand Theft Auto Vice City」は本作をインスパイアした部分が多く、ゲーム内のボスの邸宅などはほぼ同じ間取りとなっている。武器の一つにチェーンソーがあったのも本作の影響によるもの。
ちなみにゲーム版「スカーフェイス」も存在するが、日本未発売だそうです(amazonでは買える)。CVはパチーノでは無いらしい。
Once upon a time in America
1920
年代、禁酒法時代のニューヨーク。ユダヤ人ゲットーにて育った少年ヌードルスは仲間たちと悪事を働く日々を過ごしていた。ある日、彼らの前に現れた少年
マックスは、酔っ払いから財布を盗む計画の邪魔をする。ヌードルスとマックスは初めこそいがみ合うも、次第に心を許し合う関係となり、兄弟分として行動を
共にするようになる。
彼らは禁酒法を利用した数々の犯罪行為で功を成し、つかの間の栄光を味わう。しかし、そんな若かりし季節は永遠に続くものでは無かった…。
非常に難解な作品であります。3つの時代が交差する構成、キャラクターの行動や心情が読み難い演出、未だに解釈の分かれる結末など、「わかりづらい」映画
といえる。加えて四時間弱にも及ぶ長尺であることから、初見で完全な理解を得るのかなり困難ではないだろうか。(私は何度観てもよくわからないところがあ
ります)
導入部から謎、謎、謎の連続で始まり、ラストは釈然としない終わりを迎える。それでも全体を漂う哀しげでどこか懐疑的な雰囲気(変な日本語)は魅力的に映る。
少年時代編は真っ当に面白く、これだけでも十分に観る価値はあると思っている。本作のビジュアルイメージに使われている、少年時代のワンシーンが画として凄く良い。実際にはジメジメした話なんだけども。
ヌードルスとペギーのやりとりが好きだな。特にトイレのシーン。させ子いいよね。あと屋上ね。エロばっかじゃん。
昔は仲の良い友人だったのに、大人になるにつれてそんなに単純じゃいられなくなってしまう。これも「どうしてこうなった」なんだな。
ヌードルス少年がム所に入って出てきたら、たった6年でデニーロになっているという所は笑うとこだろうか。そのためにホクロまで付けてさ。
本作には製作会社が勝手にフィルムを継接ぎして物語を時系列順につなげた(更に大幅にカットした)バージョンのものがあるらしい。そして酷評されまくったと。ゴッドファーザーもそんなことやってた気がする。
Corleone
厳密には映画ではなく、イタリア製作のテレビドラマ。全6回計600分弱で展開される、史上もっとも凶悪なマフィアのボス、サルバトーレ・”トト”・リイナの半生を描く物語。リイナは2015年現在も存命である実在の人物。
イ
タリア、シチリア島の寒村コルレオーネ村で暮らす少年リイナは、貧しさから抜け出すために地元マフィアのボスに取り入り、闇世界へと足を踏み外していく。
一方リイナの幼馴染ビアージョは、幼い頃世話になった弁護士をマフィアに殺されたことからマフィアを憎むようになり警察官を志す。
親友であった二人は袂を別ち、マフィアのボスとして君臨するリイナと、彼の逮捕に執念を燃やすビアージョという間柄となる。物語は拘留されたリイナに対しビアージョが問いかけるところから始まる。
Corleone Il capo dei capi Trailer事実を一部脚色して造られたドラマとのことだが、リイナのボスとしての行動は出来の悪い脚本レベルで常軌を逸している点が多々ある。とにかく邪魔な存在は片っ端から殺していくのである。事実は小説よりも奇なりを地で行く存在と言える。
物語をドラマチックにしているビアージョの存在だけが脚色であるという点も救いの無さを加速させる要素。
テレビドラマなんだけれど質の高さは映画並みであり、海外ドラマのコンテンツ力の高さには全く頭が下がる思いです。
吹替えこそ無いものの日本語字幕のDVDがレンタルされているのでツタヤとかで探せばあるかもしれないですね。僕はゲオで借りましたね。
とりあえずこんなものでしょうか。
デニーロとパチーノばっかですけど。
マフィア映画とい言いつつギャング映画も入ってるわけですが。そもそもマフィアとギャングの違いって何よ?って感じだと思うのでちょっと補足。
徒党を組んで組織的に犯罪を行うものを総じてギャングと呼びます。単体だとギャングスタ(Gangsta)となる。
で、マフィアというのは犯罪組織であることに違いはないんだけれど、イタリア系の人間が集まって出来たものを限定してそう呼ぶようです。つまりはマフィアもギャングのうちに含まれるということになります。
地域によって異なるようですが、ニューヨークのファミリーなんかだと、イタリア系の血を引いていないと幹部になれないといった決まりがあったりします。「Goodfellas」の劇中でそんな描写がありましたね。
今
回挙げた中だと「Once upon
~」と「Scarface」はギャング映画になりますね。雰囲気的にはそう違いは無いので区別する必要は無いんですけど、たとえばブラジルの貧民街を舞台
にした「City of
god」(超名作)は対立する犯罪組織の抗争を描いているけれども、「Godfather」のようなパリっとしたスーツを着たオトナたちがメインを張って
いる作品とは大分雰囲気が異なると思います。
ということで、マフィア映画っていったらGodfatherみたいな感じのもので、ギャング映画っていったらそれらを含みつつ、あまり制約のないものを指すことになるんじゃないですかね。たぶん。
ちょっと触れた「City of god」を含め、まだまだ語りたい作品があるのでそれは次の機会にでも。
ではまた。
今回挙げたものはHuluでいくつか観れるのでよかったらどうぞ。