アンラッキーヤングメン 大塚英志×藤原カムイ 全二巻
1968年、東京。戦後民主主義と共に、戦争を知らない子供たちは モラトリアム最期の季節を迎えた。
親からネグレイトを受けて育ち、集団就職で上京したのち盗んだピストルで無差別に4人の命を奪ったN。学生運動から逃げるように大学をドロップ・アウトした、映画の製作を夢見る売れない漫才師のT。胎内被爆によって余命いくばくもないことを知りつつも死に急ぐように学生運動に身を投じるヨーコ。
時代の空気に翻弄されるように青春の刻を彷徨う3人は、新宿のジャズ喫茶「ヴィレッジ・バンガード」で出会った。
やがて彼らはTが書き上げた映画脚本「アンラッキーヤングメン」を基に現金強奪事件を企て、紆余曲折の果てに3億円を手に入れるのだが・・・。
永山則夫連続射殺事件、連合赤軍事件、3億円事件、安田講堂事件、三島事件などの実際に起こった事件をベースとして、昭和43年、44年を生きた若者たちを描いたフィクションである。主人公のNは永山則夫、Tは北野武、ヨーコは永田洋子がモデルとなっているが、キャラクターの生い立ちと思考を記号化したものに過ぎなく、飽くまでフィクションの人物として描かれている。永山則夫と北野武が同時期にヴィレッジ・バンガードで働いていたことが発想の起点だと思われる。(実際には早番と遅番であるため接点はない)
物語は終始淡々とした雰囲気で進み、度々挿入される石川啄木や大江健三郎の引用が張り詰めた空気感を創り出している。映画の撮影も3億円強奪も色恋沙汰もセックスも革命ゴッコも全てが平坦で同じ温度を保って過ぎていく。全てが景色として通り過ぎて行く。そこに登場人物の大きな感情の揺らぎを垣間見ることはついぞ無かった。全員が当事者であり傍観者然としていた。
この時代を経験していないものから観れば、リアリティという観点でのこの描写の妥当性を論じることは出来ないが、同時代の作品に流れる空気感と非常に似通ったものを感じつつも「小奇麗さ」がやや鼻にかかる。その一点において違和を覚えるが、作品としては非常に読み応えがあった。