TOKYO TRIBE2 井上三太 全12巻
実在の東京とは何処か異なる架空の街トーキョー。暴力、犯罪、セックスに塗れた歪んだ大都市で、少年たちは群れを成し、終わらない日常を生きていく。
ムサシノクニを根城にするトライブ(族)ムサシノSARUの構成員である出口海(かい)は、かつての親友であり現ブクロWU-RONZのボス、メラに仲間を殺される。この事件をきっかけとして、二人のいさかいはトーキョー中を巻き込んだ戦争へと発展していく・・・。
昨年夏の実写映画化も記憶に新しい井上三太の代表作である。90年代のストリート文化をベースに、ヘビーでバイオレンスなHIPHOP要素を多分に取り入れ、独自の世界観を構築することに成功している。井上三太のターニングポイントとしても重要な作品であり、独特のデフォルメをされたキャラクターや魚眼レンズ越しの映像のような極端なパース表現に代表される彼の非凡なセンスは、この作品によって完成を見たといっても過言ではない。故にこれ以前の作品に見られた捉えどころの無い不快感の様な魅力はスポイルされたとも言えるが。作者は本書の巻末にて「ようやく漫画家になれた気がする」とのコメントを残している。
私がこの作品に触れたのは中学三年の時だった。当時洒落っ気づいて購入したファッション誌(月刊BOON98年1月号)に掲載されていた第2話を見たのだ。初めは「変な漫画」という感想しか持てなかった。どう見てもギャグ漫画調の絵柄で描かれたイカれた世界の出来事は、インパクトこそあれどどう受け入れて良いのかわからなかったものである。
結局、全巻読破したのは連載終了から3年ほど後であった。
読み返す度に引っかかる部分がいくつかある。ラストで海が「彼」を受け入れるシーンはもちろんなのだが、それ以外で思いつくのが海と父親の対話のシーンであ
る。海の家に突然現れた彼の父親は「おまえは何をやってるんだ」系の説教じみた小言を重ね、海は反発するも有用な言葉を返せぬまま仲間のピンチを聞いてそ
の場を飛び出していく。
父親の言葉により、海はバイトをクビになり現在働いていない状態にあること、家賃は母親に払ってもらっていることを読者は知らされる。それでも海は「俺には俺の世界があるんだよ!」などと吐き捨てる。非常に格好悪いと思えるのは大人の目線で見ているからだろうか。ファンタジーとしてボカしておくのが定石である「不良漫画の金銭感覚」をあえて描くことによりリアリティを強調したのか。実際当時のチーマーはほとんどが金持ちの子供であったと言われているが。
もう一点はテラの存在である。SARUのリーダーとして多くの人間から慕われていたという設定だが、物語の序盤で退場してしまうため、読者目線では影の薄いキャラクターである。以降、ことあるごとに彼の存在の大きさを強調されるエピソードが挿入されるがあまりピンとこない。道端の女を殴って車に連れ込み輪姦したのち全裸で叩きだすようなメンバーのボスをやっていたようには見えないのだ。トキワ荘で寺田ヒロオが良い兄貴分であったのとは訳が違う。
他にもウォンコン関連の浅さなど惜しい要素は少なくないが、他に類を見ないオリジナリティと実験性、刺激的なスピードと暴力、最高にクールでヒップなセンスの化学変化によって生まれた良質のエンタテイメント作品であることに変わりは無い。
「これこそが王道な少年漫画である」旨の評価を以前どこかで見た記憶があるが、これは全くにオルタナティブな存在だと思う。