少年少女 福島聡
月刊コミックビーム2001年12月~2004年4月連載
単行本全四巻
ダラダラと長く連載が続き段々と世界観が崩壊していく作品よりは、ページ足らずでもその余白で作品世界の余韻に浸れる短編の方が好きです。
表紙買いをしてアタリを引いた稀有な例。そもそも書店で表紙に目が行くのは平積みされているからであり、それなりの営業努力に呑まれた結果だろう。今思えばこの表紙のどこに惹かれたのか皆目見当つかない。もう10年以上前の話ですけどね。
マイナーレーベルの割には今でも古本屋でたまに見かける。それなりに売れたのだろうか。
全話読み切りの連載シリーズ。毎回、時代も場所も異なる設定で少年少女を中心に据えた物語が展開される。
いくつか抜粋すると
「触発」(1巻)
不慮の事故で友人の兄を死なせてしまったヨシコ。自問自答の末、死なせてしまったジロウのことを一生因果に含んで生きていくと決める。ジロウの弟ゴローはヨシコに対し複雑な想いを寄せるが・・・。
「自動車、天空に。」(1巻)
スクラップ工場で変な車ばかり造っている男、理(まこと)と近所に住む女の子、直(なお)。直は幼稚園生に始まり、中学、高校、大学、結婚、出産、離
婚と人生経験を積み重ねていく中で、その時々に理のもとへと遊びに訪れるが、理はいつまでも変わらず変な車を作っているのだった。
「土に還る花」(2巻)
看護学生のエビスは、自身が介護を担当していた老人患者の突然の死を聞かされる。最後に交わした「俺が死んだら土葬にしてくれ」という言葉が引っかかっていたエビスは、友人の重一郎に頼んで見晴らしの良い丘に埋めてもらい、死について考えを巡らせる。
「憂鬱と薔薇」(4巻)
自宅で引き籠っていた鬱で不感症気味な少女なつめは、ハイテンションでゴーイングマイウェイな少女クガに半ば強制的に外へ連れ出される。なつめはクガに悪態をつきつつも二人はバイクで薔薇園を目指す。
この拙い文章力ではさっぱり良さが伝わらないこと山の如し。
というのも、ストーリーがどうこうという作品では無い。正直、当初は面白いのかそうじゃないのかもよくわからなかった。ただこの雰囲気がたまらなく好きである。雰囲気漫画と言えばディスになるのだろうか。
真っ当なジュブナイルから始まり、SFだったりコメディだったり果ては落語や日記漫画もある。どれもが高クオリティだとは言わないし、元ネタが透けて見えるものもあるが、月刊連載であることも踏まえてその実験的なチャレンジ精神は買いたい。
(虚空に向かって唾を吐く。)
筆ペンを多用した特徴的な絵柄(当時よく黒田硫黄のパクリとか言われてた)や、キーボードを叩く音の「タパタパ」や花火の爆発音「バポラ」などのあざといほど徹底した独自の擬音など表現の拘りは強く独特の雰囲気を作り出している。
また、話に一見オチが無いようなものも少なくない。難解なのか独りよがりなのかは読者によって評価が別れると思われる。
(憂鬱と薔薇)
子どもが大人になる通過儀礼としての、世界の理屈に取り込まれていく過程の中で、それに抗ったり従ったり受け入れたりする様を多用なシチュエーションを用いて描いている。
雰囲気だけと言われればそれまでだが、漫画という表現方法でしか確立しえない空気感がこの作品には漂っている。そこがたまらなく好きだ。
またこういう短編が読みたい。