オンガク

ゲバルト、ハレンチ、ナンセンス!昭和アングラグルーヴ【ザ・シロップ】の素晴らしき世界

投稿日:2015年8月8日 更新日:

清純な乙女のためのハレンチ講座

ザ・シロップというバンドをご存じだろうか。
名古屋市大須を中心に活動している時代錯誤なアングラポップバンド(誉め言葉)である。GS、昭和歌謡といった昭和40年代的なインスピレーションに、ガレージ、サイケ、ソフトロック、ボッサといった多様な音楽的趣向が混ざり合ったグルーヴは独特の「ゲバルトでハレンチでナンセンス」な世界観を構築している。
丁度、昭和歌謡のリバイバル(2001年~頃)が起こる直前に姿を現したバンドであるが、一過性のブームに流されることなく、現在に至るまで独自の活動を続けているのである。

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ザ・シロップは1999年、松石ゲル(Dr)とカズミ(Vo)を中心に活動開始。古着屋「ジ・アザー」が主催するイベント「アングラ・ポップ」にてその頭角を現す。
2000年に発表した1stアルバム「ザ・シロップの世界」はかなりマニアックでアングラ志向の音楽性であったにもかかわらず、全国区でそれなりに売れたようである。

かくいう筆者もシロップに触れた切っ掛けは1stアルバムであった。
2001年の夏、タワレコで配布していたインディーズバンドの販促フリーペーパー内にて多くのCDの中の一枚として紹介されていた。その煽り分とシンプルなジャケ写に惹かれて購入。こいつはビビった。これはサイケだ!と。ここでいう「サイケ」とは「Psychedelic」とは若干ニュアンスが異なるものなのである。1968年と昭和43年が同じ年であっても響きから得られるイメージが違うように。実にサイケであり、ハレンチでナンセンスだった。それでいて現代的であった。

音を聴いてまず最初に浮かんだのはGS(グループサウンズ)。それもブルーコメッツやスパイダースではなく、ジャックスあたりのアングラっぽい雰囲気。ブリブリしたファズ・ギターと柔らかいオルガンの音に弱い私には効果覿面であった。

そして山下毅雄である。山下毅雄はテレビ番組の世界を中心に活動していた作曲家であり、プレイガールやルパン三世の1stシリーズ(1971年。以下、旧ルパンと呼称。)の劇伴が特に有名。筆者は、2000年頃に流行っていた「PUNCH THE MONKEY」というルパン三世の音源を使ったリミックス盤企画の流れから旧ルパンにハマり、その劇伴の渋さ、昭和の大
人の世界を匂わす音にクラクラしていた時期だったので、シロップが描こうとしていたその世界観にドンピシャでハマってしまったのでした。

具体的には、旧ルパン第2話「魔術師と呼ばれた男」や第6話「雨の午後はヤバイぜ」、第9話「殺し屋はブルースを歌う」などの劇中で使われた楽曲と非常に近いイメージをシロップの音に感じていたのでした。

41Y78GK848L松石ゲルがヤマタケや旧ルパンの世界観を意識していたかどうかは当時知る由もなく、勝手に一人で盛り上がっていたわけなんですが、3rdアルバム「ハダカになっちゃおうかな」において山下毅雄作曲の「二人を愛してしまった私」をカバーし、歌詞カードの最後に「このアルバムを故・山下毅雄氏に捧げます」と添えられた一文を見て「ああ、やっぱそうなんだな」と思ったのを覚えています。曲タイトルも、これルパンだな…というものがいくつかあるのだ。

 

昭和40年代前半という時代だけが持ち得た、大人世界のフィーリング。ふしだらでクールな男女の関係。こういったイメージは虚構の世界の中にしか存在しないものなのだろうけど、それ故に強烈に惹かれるものなのである。そして、おそらくはその時代の実体験を持たない、後追いで断片的に知った者にしか共感できないイメージの総体でもある。

同じように、シロップの楽曲も昭和40年代的ではあるものの、当時には絶対に存在しない音であると思う。本物以上に本物っぽいものというのは存在するのである。それは美化された記憶や装飾されたイメージ。そして拭うことの出来ない現代性というものが混ざり合っての産物に違いない。そのギリギリの瀬戸際で上手くバランスをとっているから心地いいんだろうなと思うわけなのです。

百読は一聴にしかず。ということでライブ映像(公式)


ファッションがイカすなあ。全体を漂う気だるい雰囲気が良い。

 

アルバムレビューもしておこう。

ザ・シロップの世界(2000)

ザ・シロップの世界
 ザ・シロップ登場。インパクト大の1stアルバム。筆者は夏に聴いたので、何となく夏っぽいアルバムだと勝手に思っている。
聴き始めた頃はカズミのボーカルに物足りなさを感じていたのだが、次第にこれが正解であるという所に落ち着いた。この隙のある甘ったるいボーカルは好き嫌い
別れるだろうなと思いつつも、「シロップ」なんだから甘くて当然なんだと。ガチガチに作り込んであるわけではないラフさ、素人臭さが良い方向に働いている
と感じる。そうだよね、こういうのでいいんだ。
M1のブリブリファズギターからのキラーチューンM2「やぶれかぶれのブルース」で即虜になってしまいましたとさ。

やぶれかぶれのブルース
ザ・シロップ
2000/12/27 ¥150

 

愛のシビレ ザ・シロップアルバム第2集(2002)

愛のシビレ

二枚目。前作より音数が増え、楽曲のバラエティが増した模様。ありがちな昭和歌謡風という言葉では既に括れないほどに多様性を孕んでいる。昭和とボッサって相性いいと思う。
M8は架空の映画「やぶれかぶれのブルース」の予告編となっている。この時はまだ冗談だったようだが、後年サントラも製作されている。映画自体は結局作られることはなかった。個人的にはこのノリはちょっと苦手。
1stに比べ随分と洗練されたというか、企画ものっぽい雰囲気は無くなって手堅い出来になっている。もちろんその分失ったものもあるだろうけど。
M2の表題曲「愛のシビレ」がラテン歌謡してて好きだ。「狂・狂(クル・クル)・パー」って言語感覚はモンキーパンチっぽいなっていつも思います。

 

愛のシビレ
ザ・シロップ
2002/12/20 ¥150

 

ハダカになっちゃおうかな(2006)

ハダカになっちゃおうかな

 

4年ぶりの3枚目。この間にサントラ盤「やぶれかぶれのブルース」がリリースされている(未聴)。グラジオラスレコード移籍第1作。製作中に他界した山下毅雄に捧げられている。
今作はロック色が強いように感じる。M3のタイトルは「21世紀の健忘症患者」なのだが、M5のインスト曲「マシンガンピロートーク」の方が元ネタだろう「21世紀の精神異常者」っぽいノリなのが笑える。
カズミの声質もいい感じに変化してきた感がある。M11「さよなら三角」での太めで低いちょっとババ臭い(?)歌い方にて顕著に表れている。この曲のGS歌謡ぷりがたまらない。ダイナマイツのトンネル天国とかああいう感じのね。
M6「二人を愛してしまった私」は上で述べたように山下毅雄の未発表曲のカバー。旧ルパン第2話で不二子が歌っていたもの。イントロには旧ルパンのエンディング曲の一部が入れられている。

 

二人を愛してしまった私
ザ・シロップ
2006/05/03 ¥150

 

夜のカラッポ(2010)

夜のカラッポ

また4年ぶりとなる4枚目。この間にミニアルバム二枚とベスト盤が出ている。

帯の煽りによると「オトシたい夜の勝負レコード」だそうだ。言うだけあって全体的にムーディーな雰囲気。
M4「ミッドナイト・パンチのテーマ」とM5「裏切りは女のアクセサリー」はQTV系ドラマ「ミッドナイト・パンチ」のテーマ曲だそうだ。またそういう遊びをしている。

「裏切り~」はまんま山下毅雄だなあ。タイトル自体が旧ルパン第1話ラストのルパンのセリフそのままだからね。
M9「私のフェローラ」はトヲタ自動車「フェローラ」のCMソング。らしい。セルジオ・メンデス調。
M2「全部カラッポ」はどっかで聞いたような気がしていたんだけど、これサビが「愛のシビレ」と同じだよな。いいけどさ。こっちの方が疾走感あって好きかも。
1stから10年経ったわけだが、随分と遠いところへ来たんだなという気にさせられる。しかしそれは方向性が変わったとかそういう意味ではなく、コンセプトに対して適切なアプローチが出来るようになったというか、簡潔に言うと成長したという話。昭和っぽいといった形容ではとどまらない、シロップだけが魅せられる世界というのがキッチリとここに在るのだ。
本作がオリジナルとしては最新作にあたるのだが、個人的にはこれが一番好きです。

 

裏切りは女のアクセサリー
ザ・シロップ
2010/09/02 ¥150

 

 

 

ということでザ・シロップ。如何だったでしょうか。
拠点が名古屋なので動きが見えづらいのですが、これからの精力的に活動を続けていってもらいたいと思います。
旧ルパン三世を観ておくとより一層楽しめたりするかもしれない。

ではまた。

-オンガク

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