クリスマスの思い出
記憶に残る最古の思い出は幼稚園の頃。
僕はプレゼントに、当時テレビで放送していた戦隊シリーズ(多分ライブマン)の合体ロボ玩具が欲しかったんだ。
しかし、両親にはそれが欲しいということを告げなかった。
「サンタさんはあんたの欲しいものをちゃんと知ってるから大丈夫だよ」なんて言われていたからだ。
そんなわけないだろと思っていた。
買ってくるのは父だし、清田のダイエーの中に入っている木馬館で買うんだろと思っていた。
でも親がそう言うのだからと、願いのものが当日の朝に手に入ることを夢想していたんだ。
6歳ぐらいの子供はちゃんと現実と空想の区別ができる。
親になると忘れてしまうのだろうか。
呼吸をするようにテレビの電波を浴びて育った子供たちはそういうことが分かっている。
ドラえもんなんか見てると、サンタを信じてるのび太がスネ夫にバカにされてたりするから。
でも、サンタクロースの存在を信じている素振りを見せないといけない。
そうでなければ親に対して不誠実なのではないかと感じていたからだ。
そして迎えた朝。
受け取ったものは戦隊シリーズのキャラクターが付いたラジコンカーだった。
「ああ、やっぱそうだよな」と思ったのを覚えている。
両親にはニアピン賞をあげたい。
だが「これじゃないんだよ。ちゃんと事前に聞いてきてよ」という気持ちも強い。
父親は自動車が好きで、自分の子供だからこいつも車が好きだろうという思考を持つ人だ。
そして母親から、私が戦隊シリーズが好きだということを聞いてこのチョイスをしたのだろうということはすぐにわかった。
人からものを頂いた際には、それが好きなものではなくても大袈裟にはしゃいで、感謝の気持ちを示さなければならないという程度の倫理観は既に身についていたので、とりあえず嬉しいフリをしていたと思う。
サンタの野郎がくれたんだから例え欲しいものじゃなかったとしても親を責めるのはお門違いのはずだ。
サンタの野郎が煙突なんかない我が家に不法侵入してプレゼントを置いていったのだから喜ばなくちゃいけないんだ。
そのラジコンカーは不良品だった。
配線に不具合があるらしく、電池を入れても動かなかった。
ということを母に告げたら、
「じゃあ店で返品交換してもらおうか」と言った。
すごくショックだった。
これはサンタさんに貰ったんだから木馬館で返品交換とか出来ないんだよ。
ちゃんと最後まで役割を演じてよ。
と思った。
でも言えない子だから、
「せっかくサンタさんがくれたんだから交換しない」
と言って頑なにその提案を拒んだ。
壊れたラジコンを手で押して遊んだ。
次の年の小学一年生まではサンタがいた。
その年はちゃんと欲しいものが貰えたんだ。
ミニ四駆とその改造パーツ。工具類。そして走らせるサーキットコース。
次の年は12月の初頭に母親から「今年は何買って欲しい?」と聞かれた。
どうやらサンタは死んだらしい。