女の穴 ふみふみこ
月刊COMICリュウ2011年3月、6月、8月号掲載+書きおろし
全1巻
非常に挑発的で扇情的なタイトルを持つ、ふみふみこの単行本デビュー作。女子高校生3人の性行為を軸に描かれる愛憎劇全3編4話。
2014年に本作を原作に実写映画が作られている(未見)。
・女の穴
表題作。ぽっかりと空いた穴の様な目をもつ鈴木幸子は、担任教師の福田に「私と子供を作ってほしい」と持ちかける。
彼女曰く、自分は宇宙人で地球人との間に 子供を作ることを命ぜられているという。福田は軽い気持ちで承諾し、鈴木と寝る。彼女は「目的は達成しました」と残し、二人の仲は疎遠になる。数ヵ月後、福田のもとに鈴木からの呼び出しメールが入り・・・。
・女の頭
両親を早くに亡くした兄妹、テルと七緒。七尾はテルに対し実の兄以上の感情を抱いてしまう。
テルは交通事故で他界するも、七緒の強い情念によってか、人面瘡として七尾の後頭部に現れてしまった。以後二人は互いの意識が伝り合う関係となり、その中で七尾は自分の幸福について再認識する。
・女の豚 女の鬼
真面目な優等生の萩本小鳩は、国語教師の村田克己(52)に密かな想いを寄せる。しかし、同性愛者である村田は自身の生徒である取手衛を想っており、放課後の教室で取手の机を愛でながらの自慰行為を日課としていた。
その現場を目撃してしまった小鳩には鬼が棲みつき、以後村田に対する倒錯した愛情はサディスティックな性的虐待へと変わるのだった。
「女の豚」「女の鬼」の二編で同一の物語を異なる視点から描いている。
キャリアの中でも初期に位置づけられる作品であるため、たった4話であっても作家の成長が見受けられる。ただ作風を変えているという意味では無いと信じたい。
直接的な性描写が多いにもかかわらず、終始淡々とした乾いた空気感が漂う。少し離れた所から俯瞰的に見ている感じがするのだ。性描写にエンタテイメント性を盛り込まないあたり少女漫画の文脈であることを感じさせる。
本書の裏表紙に「女を掘り下げた4作品」という煽りがあるが、そこまで深みがあるわけでもなく、かといって引っかかりが何もないというわけでもない。少なくとも「女の業」みたいなものはあまり感じさせない。
何となく共通のテーマがあるようでいて無い。もともとシリーズ構成を意識して描いたものではないのだろう。
村田に対し、授業中に自慰行為を強要する小鳩
表題作「穴」の持つどことなく昭和的な叙情感が好きだ。筆ペンを用いたラフなタッチがドライなキャラクターの非人間性をより強調させていると思う。ガロとかああいった時代の雰囲気がさらっと出ている気もする。そういえば曽我部恵一と対談していた(未見)。
「頭」以降現在に至るまで、「穴」ほどの強い筆絵タッチは無いので、演出としての飛び道具だったのか、単に書きやすい方へシフトしただけなのかはわからない。他の作品には合わない気もするので正解なのかもしれない。
萩本小鳩がえらく可愛い。
色々小理屈並べたが、本書を手に取った理由は「豚」の中の1ページを見たからである。
小鳩は村田の自慰行為を目撃した時、ショックを受けてはいたが、その感情の源は先生が取手を好きだという点であって、放課後秘密裏にしていた行為自体に対し
ての嫌悪感がまるで描かれていない。漫画的な心理の動きであるが、性と恋愛が同じレベルで存在していることに抵抗が無いところは現代的な人物描写だと思
う。これをそのまま実写でやるとただのAVなんだけれど。
村上春樹のノルウェイの森を忠実にゲーム化して樋上いたるの絵を付けたら「100%のエロゲー」になるみたいなものか。
最適な表現媒体というものはある。
紆余曲折の果て
どれもあらすじだけ書きだすと結構エグイ作品の様な気がするが、読後感は悪くなく、なんだかいい話に見えてしまうのが作者の強みではないだろうか。だがそれ故、実写映画が怖くて見れないのであった。
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